田越の技術
健康を考える家づくり
―家と人、そして風土の健康から、家づくりを考え直していきたい―
家は「商品」ではなく、「生命」
日本人の平均寿命は世界でもトップクラスです。しかし住宅寿命は平均20年前後。その家は、エネルギーを浪費し続け、廃棄時になっても環境に負荷を与え続けています。また、年間数万人が家庭内事故で亡くなり、家がアレルギー疾患や脳卒中、化学物質過敏症の原因になっているという事実。住む人々を守り、育み、環境と共生しながら、個人資産であると同時に環境資産としても住み継がれてきた、かつての日本の家の形は、もうそこにはありません。
家づくりは、家族づくり。「住む」ことの語源が「澄む」ことであるように、家族の身体も心も、そこで澄んでいくような存在でなくてはならない…というのが、私たちの家への考え方です。
家とは「買う」ものではなく「創る」もの。「商品」ではなく、それ自体が生き続けていく「生命」という思想が、ここにはあります。
人と環境と絶縁しない家づくり
およそ6兆にも及ぶ細胞から成る1人の人間のなかには、それぞれ固有の宇宙があります。外の環境と仕切りをした家にも1つの環境があり、もちろん、一歩外に出れば自然界という広大な環境がそこにあります。
厳しい寒さや暑さと同居しようというのではありません。人間の健康に負荷を与える部分は遮断しながら、むしろ自然界と積極的に繋がっていく家──。例えば、光を浴び、季節の風や香りを感じ、時には天窓や縁側などの「装置」を駆使しながら、自然界の恩恵を家のなかにまで取り込む工夫も、家づくりの大切な要素といえはしないでしょうか。
夏と冬を旨とする住空間
これまで日本の家の多くは「夏を旨とすべし」という思想で建てられていました。しかし、地方によっては、家のなかにいながら冬の寒さに震え、結露に悩まされ、それが住む人の健康と建物の寿命に大きな影響を与えてきたことを無視できません。
家は夏も冬も旨とすべし、なのです。季節や自然の移ろいを味わいながら、住む人の健康に負荷を与える部分は遮断し、頑ななまでに人を守り抜く器としての、家。
赤ちゃんからお年寄りまで、また障害の有無にも関わらず、あらゆる人がそこで安心して、健康に、安全に暮らすことを、寡黙に支える器としての家、ということもできるでしょう。
家の性能を最優先する
かつての大工は、木に釘1本打ち込むときにも「この家でおまえは生き返り、この家族を守っていけよ」という願いを込めて作業にあたりました。そこには、そうした願いを具現化する確かな技術があり、その技術に裏付けられた空間があり、意匠、そして性能がありました。
今、私たちはその願いともに、家族と家を守るための技術をさらに進化させながら、環境への負荷までを考慮した技術を極めようとしています。
構造学が中心であった建築から、そこに熱力学や予防医学、居住福祉までを加味した、全く新しい建築技術で建てる家。時代を超えて住み継いでいく家だからこそ、先端の技術と思想を惜しみなく具現化した家づくりを、という願いと技術がここにあります。